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お菓子の開発物語

エコルセ物語

「エコルセ」の名前の由来は、フランス語の「樹の皮(エコルス)」。名前の通り、やわらかめに溶いた生地を薄く伸ばし、焼き立てのうちに年輪のように巻き上げた菓子である。素材を生かしきったシンプルな味は、森の四季をイメージしたパッケージとともに、ものの命を大切に生かしきる本高砂屋のメッセージを静かに物語りながら、変わらぬおいしさを重ね続けている。

サクサクッと軽くて小麦粉の滋味と旨味がフワッ

エコルセ

口に入れると、繊細に重なる生地の層が空気のようにサクサクッとほぐれて、焼きたての芳しさと優しい甘さが広がる…。本高砂屋のエコルセは、小麦粉そのものの旨味をひき出したシンプルさ、へルシーさが生命。品よく軽やかなおいしさで、多くのファンに愛され続けている商品である。
こんなエコルセをあらためて見直すと、発売から30年を経ていることに驚かされる。少しも古びず現在でも新鮮ささえ感じさせる独自の個性と味わいがある。
舌の肥えたグルメ志向の現代人をも十分に満足させる完成度の高い菓子−。その秘密を探るため、記憶のフィルムを少し巻き戻して、エコルセが誕生した時代へさかのぼってみることにしよう。

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”量”から”質”を求める時代へ価値の転換期にデビュー

エコルセが産声をあげたのは、昭和45年。大阪で開催された万国博覧会が史上最高の成果を記録し、テレビコマーシャルのキャッチフレーズ「モーレツからビューティフルヘ」が流行語になった年である。この2年前の昭和43年に、日本の国民総生産はアメリカにつぐ第2位となり、戦後の困窮の時代からひたすら追い求めてきた経済的繁栄を、多くの人びとが手に入れたように感じ始めた時代だった。
ファッション、グルメ、旅行…といった、モノの豊かさとは違う種類の豊かさヘ。新たな価値観や気分を、人びとが求め始めた時期でもあった。
そして、本高砂屋もまた新しい時代を模索していた。当時の社長杉田政二(現会長)は、その頃の主力商品であり、爆発的な人気を誇っていたクリームパピロとは異なるタイプの菓子の開発に取り組んでいた。ヒントは、クレープを巻き重ねたビスケットのような食感のフランス菓子。その菓子に出会い、それを作る機械があることを知った杉田にひらめきが走った。「これを使えば、雲母のような層が口の中で軽やかに溶ける、今までにない菓子ができる−」。当時、破格の値段でフランス製の製造機械を購入し、試作に明け暮れる日が続いていた。
フランスのレシピは手に入っていたが、日本とは小麦粉の質が異なる上に、つなぎに植物性ガム質の溶液をプラスして生地の破れを防ぐもので、素材の味を最大限に引き出そうとする本高砂屋の菓子づくりとは相容れない部分があった。そのため、機械にあわせるのではなく、機械はあくまでも道具として利用し、あらゆる面でイチからの開発が必要だったのである。

昭和40年代後半エコルセ紙箱 昭和40年代後半には、エコルセの紙箱も登場

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普通の焼き菓子の材料でまったく新しい食感を創ること

エコルセの主な材料は小麦粉と砂糖、油脂、卵などで、余計なつなぎなどは一切使用していない。ほとんどの焼き菓子と同じ材料を使いながら、まったく新しい風味、食感を作ろうという挑戦だった。
その最大のハードルは、生地づくりにあった。材料を混ぜ合わせて生地を作り、それを製造機械のドラム状の鉄板に約0.5mmにのばして焼いて、巻き上げるのだが、薄いだけにすぐ破れてしまう…。
最適な生地、すなわち、ある程度のねばりと強さがありながら、口溶けが軽いという相反する性格を併せ持った生地を作るために、材料の選択と配合、混ぜ方のあらゆる可能性を探り、試作、試食する日々が続いた。そうした中でたどり着いたのが油脂にショートニングを使用することだった。ショートニングは生地の中に細かく均一に広がりやすく、小麦粉のグルテンの形成を抑えてサクサクした口当たりにする性質があるため、液状のオイルやバターよりきめ細かくソフトに焼き上がることがわかった。さらに、生地のコシを微妙に強くするために、最適なブレンドと挽き方を指定した専用の小麦粉を開発。
これらが鍵になり、生地は完成に近づいた。しかし、もう一つ大きな問題が横たわっていた。機械そのものがビスケットのような菓子を焼く機械だったため、杉田が理想とする、ハリのある煎餅のような食感にはどうしても焼けなかったのである。パリッとさせるには、強い火力でより早く焼かねばならない。この時、機械を改良したのが機械部の溝谷隆だった。本高砂屋のあらゆる製造機械を手がける天才肌の職人である。この溝谷によってモーターや変速機、バーナーが変えられ調整が繰り返された。
苦闘の時期を「もしウチに瓦煎餅を焼く技術と、それをべースに巻き菓子に仕立てたクリームパピロのノウハウがなかったら、完成は不可能だった」と杉田は述懐する。
生地の状態や鉄板の熱を肌で感じて焼き具合を見極める”職人”たち、理想の菓子に向かい妥協することのない”職人”たちがいたからこそ、フランス菓子に煎餅の食感を生かした本高砂屋ならではの商品が誕生したのである。

昭和45年エコルセ丸缶 発売時の昭和45年のエコルセ、丸缶の図案が人気

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おいしさを保つための企業秘密は”人の五感”

さらに、エコルセには、四季を通じて同じおいしさ、食感を保つための企業秘密ともいえる苦心がある。
四季を通じて、つまり気温が何度であっても同じ品質であるためには、素材一つひとつの温度、混ぜ合わせた時の温度、焼き上げる温度など、温度管理がポイントになる。そのため、常に神経を張りつめ、菓子を肌で感じながら愛情をこめて見守り続けてきた人びとがいるのである。
そして、こうした緊張感は、開発から30年を経た今も何一つ変わらない。すでに完成させたレシピがあり、化学的に割り出したデータがあってもなお、人の五感をフルに生かしながら作られている。なぜなら、菓子は自然の命をもらって作る”生きもの”であり、その状態を本当に見極めるのは、優れた菓子職人にしかできないことだから…。
現在、エコルセの製造は、久佐木進(現開発担当)が部長としてしっかりと受け継ぎ、よりおいしいものへと進化させている。生地作りは、松尾康平、 川妻義幸らの担当。こうした現在の菓子職人たちの仕事ぶりは次号で詳しくご紹介することにしよう。

昭和54年から55年頃図案リニューアル 昭和54年から55年頃、イメージはそのままに図案をリニューアル

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本物志向のシンプルさでいつの時代も愛されて

エコルセ

30年前、杉田が夢に描き、開発したエコルセは、「シンプルさこそ、人間の本能に根ざした根源的な味覚」と考える本高砂屋の理念を形にした菓子、つまり”小麦粉の旨味を味わう菓子”に仕上がった。それから、多くの方に愛されてロングセラー商品となった今、振り返ると、質を追求する本物志向の時代の流れにピタリとあったデビューであり、成長であったことに目を見張らされる。モノが”生命を得る”とは、まさにこうしたことをいうのだろう。
伝統をべ−スに、独自の技を磨きながらオリジナルを創造する。人々に伝えたい大切なものは、どんな時代でもギリギリまで挑戦する。エコルセはそんな本高砂屋の菓子作りの姿勢を静かに伝え続けてきた。短冊、筒形、三角の3種類にパッケージデザインもほぼ当初のまま。高い完成度とメッセージ性で、現在もゆるぎない存在感を保ちながら、変わらぬおいしさを重ね続けている。
「エコルセ」が私たちの口に入るまで、何人の職人の手を経ることだろう。明治10年の創業以来、手の技をつなげながら独自の菓子を生み出し、さらに味わいを磨き上げ、日々その誕生に向き合いながらおいしさをかさね続ける。そうした人々の手にこもる思い、菓子にこめる思いを今回はお伝えしたい。 淡々とした中に、底から灯るような彩りと味わいを秘めた菓子作りにかける職人たちの物語。

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アクロバットのようなバランスで成り立つさりげない味

雲母のような生地の層が口の中でフワッと溶けて、焼きたての芳しさが広がる…。はかないほどの軽やかさの中に、小麦粉そのものの旨味を凝縮したエコルセは、作る側から言えば、矛盾をいっぱいにはらんで、アクロバットのようなバランスで成り立っている菓子だという。
大抵のビスケットと同じ材料を使いながら、パリッとした煎餅の食感を持たせようとする矛盾。紙のように薄く焼いて巻き上げる、その時に破れないだけのねばりと、口溶けの軽さという相反する性格を持つ生地作りの矛盾など。工程ごとに矛盾をはらみ、これらがある一点でバランスを保つ時にはじめて、斬新なのに懐かしく、洋風でありながら和風の風趣を持つ、繊細さと素材の力を感じさせる菓子が生命を得るのである。

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身体でふれあいながら誕生に向き合う職人の仕事

現在エコルセの生地作りを担当する松尾康平、川妻義幸らは「朝、目覚めた時が勝負」だと語る。毎朝5時過ぎに目を覚ます。その時の体感温度で、6時15分に出社してからの仕事を計算するのだという。生地作りにおいて最も重要なものは温度管理である。素材一つひとつの温度や合わせた時の温度を一定に保つことで、常に均一な生地を作らねばならない。もちろん、綿密なバックデータの中から最適温度を割り出している。その温度を神経質なまでに徹底してもなお、温度計で計れない微妙な誤差があり、彼らはそれを身体で感じ取るのである。
身体でふれあいながら作るといえば、ドラム状の鉄板に生地を流して焼き、空気とともに巻き上げる製造の工程も同様である。製造機械は、前にもご紹介したように、機械部の溝谷隆が改良に改良を加えてようやく完成にこぎつけた独自のもの。これを駆使してエコルセを焼いているが、「もう一歩で焦げる」というギリギリまで焼き上げなければ、パリッとした食感や芳しい風味が出ないのだという。そして、ここでも、溝谷が調整を受け持つ。その上で、生地の状態や鉄板の熱を五感で感じて焼き具合を判断することのできる久佐木進らが、瞬時の見極めを行うのである。こんな手のかかる菓子を、彼らは「生きものですから」と淡々と語る。材料は本来すべて生きた不均質なものである。材料のクセ、温度、湿度といった常に異なる要素を組み合わせ、人と人との連携で同じおいしさを作っていく。慈しむように、日々誕生に向き合い続ける…。まさに職人の仕事である。

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一人ひとりの手でつないでいく大切なもの

心をこめた丁寧な仕事ぶりは、包装の担当者も同じである。個別包装には、これも溝谷がイチから改良を加えた包装機が活躍している。しかし「まず、私たちの目で焼き色やツヤを必ずチェックします」と岡崎真一は語る。「壊れやすい菓子ですから、箱詰めは機械ではできません。すべて手作業。ベテランになると、手の感覚だけで必要な量をピタリと手に取ることもできるんですよ」と小寺一夫も柔和に微笑む。手の技をつなげ、知恵を蓄えてきたからこそ作り得た菓子、エコルセを受け継いだ職人たちは、常に「自分たちの技術でさらにおいしく…」と磨き続けてきた。久佐木をはじめとする現代の職人たちも同じ気概と誇りをかけて取り組んでいる。こうした人々が、本高砂屋の歴史を、脈々とつないでいるのである。
生地の状態や鉄板の熱を肌で感じて焼き具合を見極める”職人”たち、理想の菓子に向かい妥協することのない”職人”たちがいたからこそ、フランス菓子に煎餅の食感を生かした本高砂屋ならではの商品が誕生したのである。

エコルセ発売30年の店頭ディスプレイ エコルセ発売30年の店頭ディスプレイ

30年間(2000年現在)変わらぬ人気の秘密は、他にはない個性を生かし、大切に育てる企業としての姿勢にあった。

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簡単に真似できない知恵と五感と技術の集積

今、かつてないほどの情報通信分野の高まりの陰で、モノや情報があふれかえり、商品の寿命は、より短くなっている。次から次へ新商品が生まれては、消えていく…。
こうした中で、本高砂屋のエコルセは発売30年を迎えた。30年もの間、変わらず愛され続けてきた、その最大の理由は類似商品がないことだろう。生まれた時には独創的でも、次々に似た商品が出て、あっという間にありふれてしまうのが普通だが、エコルセにはそれがない。
0.5mmに満たない薄さで焼いた小麦粉の生地を素早く巻きとって、雲母の層のような重なりに仕上げる。口の中でサクサクと溶ける軽やかさは、職人たちの知恵と五感と技術の集積から生み出されるもの。簡単に真似てつくれるものではない。こうした他にない個性によって、新鮮味を保ち続けているのである。

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”良さ”を伝えるための絶え間ない努力と工夫

もう一つ、注目すべきは、この商品を息長く育ててきた企業としての姿勢である。 どんなに優れた商品でも、注意をひき、興味を持ってもらう努力なしには、お客様のもとに届かない。そこで、商品の良さをどうアピールするかを日々考え、全力で取り組む人間たちがいる。商品計画からパッケージやディスプレーのデザイン、イベント展開まで幅広く手がける企画部のスタッフである。
その中の一人、木内芳は、本格的な油絵を描き、店舗設計も手がける異才で、主にデザイン分野を担当している。今、本高砂屋の各店で展開しているエコルセ30年記念の深い森の緑を基調色にしたディスプレーや記念パッケージは、この木内を中心とした企画である。「エコルセは木の皮を巻いたイメージ。森の四季を描いたパッケージデザインで長年親しまれてきました。そのイメージを生かしつつ”おいしそう”に見えるディスプレーを心がけました」と語る。
とはいえ、本高砂屋が展開する店舗は全国の百貨店を中心に約550店。立地も店舗スケールも千差万別の中で、統一したイメージを打ち出すのは容易ではない。多様な店舗に対応するため、何種類ものツールを開発し、マニュアル化して各店に徹底。さらに、キーになる店舗をチェックして回るなど、常に新たな課題に挑戦する毎日である。
また、本高砂屋の販売員による直販体制をとっているのは、自社商品を、お客様の口に入るまで責任を持ってお届けしたいという姿勢の表れ。昨年から、電子手帳によるモバイルで、数字だけでなく、販売員を通じてお客様の声が瞬時にトップに届く体制もできている。
さらに来年1月に、エコルセはよりおいしくなり、種類も増えてボリュームアップする。それに合わせて新パッケージが誕生。現在のメルヘンの森のデザインが、大地に根を下ろし枝を広げた大木に育って、店頭に登場する予定である。30年を区切りにした新たなスタート。21世紀にあっても、大切に守り続けたいものへのメッセージを込めて−。


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