• オンラインショップ
  • 商品紹介
  • 店舗一覧
  • 資料室
  • 談話室

ホーム > 資料室 > お菓子の開発物語 > パスパーラ

お菓子の開発物語

パスパーラ

パスパーラ

今から十数年前、”インポートフルーツ”がまだ珍しかった時代。耳にしたこともないような不思議な名の果実で、宝石のように輝く、甘美なジュレ(ゼリー)を作ろうと考えた職人達がいた。ボイソンベリー、パッションフルーツetc…。彼らがヨーロッパで出会ったそれらの果実こそが、涼菓「パスパーラ」誕生の原点なのだ。

「ホテルのデザートにもなり得るものを」・・・この会長(当時社長)からの言葉を胸に、米田正治と犀川正和らはヨーロッパヘと旅立った。本高砂屋が初のジュレの開発に取り組むことが決定した82年のことである。

今回のジュレの商品開発に関しては(1)今まで日本にはなかった新しい果実を使用すること、(2)本高砂屋の「本」の字に忠実に、できる限り100%天然に近い素材を使用すること、(3)ホテルのレストランのデザートとして採用されるほどの品質を擁すること、の3つの条件が会長より要求されていた。米田らがヨーロッパを訪れたのは、そうしたジュレの素材となる、まだ見ぬ果実と出会うためであった。

短期間の間に彼らは、その折にちょうど世界菓子博覧会が開催されていたフランスを皮切りに、ドイツ、イタリア、オーストリアなどの、古くからの洋菓子の伝統を誇るヨーロッパの各国を巡った。大航海時代に世界中から集められた幾多の果実、そしてヨーロッパに原生する果実を使用した数々の菓子が考案された歴史を持つ土壌だけに、彼らの期待以上の多くの出会いがあった。

そんな出会いの中で、最も彼らの興味をそそったのはドイツ産のボイソンベリーと、イタリア産のクレメンタインであった。ラズベリー、ブルーベリーなどと同じ仲間で、美しいルビー色に輝くボイソンベリーは、甘酸っぱい味とフレッシュな野生の香りが特長の果実。また、クレメンタインは、日本のキンカンに似た甘味の深い柑橘系の果実。双方ともまだ日本では目にしたこともないものであったため、今回の有力候補の筆頭として挙げられた。

帰国して早々に、米田を中心とする開発チームが商品化する果実の選定を開始した。数多くの果実の中から、本高砂屋のジュレに適した味と香り、また、特質を持つ果実を探し出すためだ。ヨーロッパで出会った果実をはじめ、考え得るかぎりのありとあらゆる果実が研究室に集められ、テストされる日々が繰り返された。

そうした中でも、特にボイソンベリーなどは、酸味が強いためになかなか凝固しないという問題点も発生した。しかし、開発チームが努力を重ね、ボイソンベリーに適したゲル化剤の調合に成功し、克服。そして最終的には米田らの考えていたとおり、ボイソンベリーとクレメンタインが生き残ることになったのだ。さらに、果実以外の素材としてコーヒーが加えられることになったが、これも会長から「炭火焙煎豆をドリップ式で淹れたコーヒーのみを用いること」という条件が出された。

このページの先頭へ

パスパーラ

口に含むと、なめらかな弾力性があるのに、一瞬に溶けてしまう柔らかさ。天然のフルーツの甘味と、豊潤な香りそのままの「パスパーラ」。今までにない新鮮な味覚と感覚に満ちたこの新しいジュレ(ゼリー)には、オリジナル、シンプルをモットーとする本高砂屋のお菓子づくりのポリシーが満ち溢れている。

夏の贈り物として人気のゼリー。しかし、ギフト商品としてパッケージされている長期保存可能のゼリーは、とろけるような柔らかさに欠け、色・香りとも人工的なものが多い。また、たとえ天然素材を使っているにしても、容器に充填する際に、高温で長時間殺菌されるため、素材の新鮮さは失われ、色も変質していることがままある。そうした長期保存タイプのゼリーの欠点をカバーするために、83年、本高砂屋は菓子業界で初めての「アセプティック方式」といわれる完全無菌充填機をこのパスパーラを製造するにあたって採用した。

当時、すでにヨーロッパの乳製品業界では、この充填方式は常識となっていた。

高温で短時間滅菌した後、無菌室で成型されたカップに充填、密封するこの方法の最大のメリットは、何といっても素材のフレッシュな風味を損なわないという点にある。特に新鮮な果実を素材とするパスパーラは、この方式を採用することによって、商品研究開発チームが苦心して作ったレシピ通りの、口当たりが柔らかく、取れたての新鮮な果実の甘みと色・香りを味わうことが出来る商品として誕生したのである。

そのパスパーラも、発売以来10年以上の歳月が流れ、その間にはアイテムの変化もあった。すなわちシャーベットやムースに代わって国内産の産地直送の果実を用いた果肉入りが登場している。そして、すべての商品に対して、その時々の時流にあった味覚のニーズに応えるため、毎年素材の見直しが行われている。もっとも、シャーベットは「露氷」という新しいネーミングとパッケージで、種類も増えて、今夏から売り出されるが、その商品については次の機会に譲ることにしよう。

現在、果汁ゼリーに採用されているのは、誕生以来のボイソンベリー、鮮やかな天然色が美しいピンクグァバ、フレッシュな甘酸っぱさのパッションフルーツに風味豊かなマスクメロンである。ことに、マスクメロンはその上品な甘さと香りをゼリーに再現することは難しい。そして、メロンの収穫期と商品の製造を始める時期にズレがある。「本物のメロンのおいしさをゼリーで味わっていただくために、品質の良い静岡産のマスクメロンを収穫期に農協から買い取り、ピューレ状に加工してシーズンまで保存しています」商品開発部次長の藤沼寿一は生の素材を扱う苦労話を打ち明ける。

また、果肉入りゼリーでは、岡山の白桃、山形のさくらんぼ、北海道のタ張メロン、愛媛の伊予柑といった各地名産の果実に加え、ブルーベリーを思わせる北海道千歳のハスカップ、広島産のニューピオーネ(巨峰とマスカットの交配品種)など、新鮮な味覚も続々登場している。

果汁、果肉入りタイプいずれも、新鮮な国内産のフルーツを素材にしているため、その年々の作柄の出来・不出来や収穫高の増減が大きな問題となる。そのため、農協と契約して一定量を確保する、作柄によってフルーツの品質や味が変わった場含にはレシピを変更する、などのきめ細かい工夫と対応で安定した品質を維持している。

いま確かに、世の中にはマスクメロンや白桃などの天然素材を使ったゼリーはたくさん出回っている。しかし、こうした絶え間ない工夫と努力、そして素材であるフルーツの品質と産地に徹底したこだわりを持つものは少ないといえるのではないだろうか。

ホテルのデザートにもなるゼリーを」という、商品開発当初のコンセプトは10年余の歳月を経た現在も脈々と流れており、それは途絶えることなく、未来へと引き継がれていくことであろう。


このページの先頭へ